【第1回】そもそも「防衛」や「経済安保」って、なんで今こんなに言われてるの?
はじめに
ここ数年、「防衛」や「経済安全保障(経済安保)」という言葉をニュースや新聞で頻繁に目にするようになりました。ただ、多くの方にとっては「それって国家レベルの話で、うちには関係ないのでは?」という印象が強いのではないでしょうか。確かに、戦争や外交の話のように感じてしまうこのテーマですが、今や国内の中小製造業の経営や技術にも、少しずつ、しかし確実に影響を及ぼし始めています。
変化のサイン──なぜ今、話題になっているのか?
きっかけは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻や、台湾有事への懸念、半導体をめぐる米中対立など、国際情勢の激変です。これらが引き金となり、国として「エネルギー」「情報通信」「半導体」「先端素材」などの供給や制御を、外国任せにしては危ない、という認識が広がりました。これが「経済安全保障」という概念につながっています。
つまり、“有事”が起きたとき、武力で攻撃されなくても、物資や情報を止められるだけで社会は大混乱に陥る、それを未然に防ごうという考え方です。
「経済安保」は政府の政策だけではない
日本政府は2022年に「経済安全保障推進法」を成立させ、インフラ、物資、技術、特定企業への対応などを法的に制度化しましたが、これはあくまで「国の体制づくり」です。 注意すべき点は、ここで扱われる“物資や技術”の多くが、中小企業を含む民間企業の手によって生産されているということです。つまり、私たちの業務や生産技術、調達ルートが、知らず知らずのうちに国家政策と結びついてきているのです。
製造現場の変化
「あれ?部品が手に入らない」 「海外から調達していた部品が届かない」「特定素材の価格が高騰している」「顧客から『この装置、どこの部品使ってる?』と聞かれた」
こうした“現場での違和感”こそ、経済安保の影響が表面化している証拠です。 例えば、工作機械の部品など、国際的な輸出規制の対象になっているものもあり、輸出入の手続きに時間や制約がかかるようになってきています。
なぜ今、知っておく必要があるのか?
防衛や経済安保は、すぐに自分たちの会社に仕事が来るテーマではないかもしれません。しかし、今後10年スパンで見れば、企業の生き残りに直結する「避けて通れない環境要因」と言えるでしょう。
・技術が「軍事転用」されるかもしれない
・サプライチェーンの組み換えに対応しなければならない
・国の施策に乗れば、新しい市場が開ける可能性がある
こうした変化を、早めに知っておくだけで、選択肢は広がります。
本連載の狙い
この連載では、難しい専門用語や法律の話を可能な限り避けながら、できるだけ現場目線で、身近な事例と一緒に、一歩先の気づきにつながる内容を目指していきます。
第2回以降では、実際にサプライチェーンで起きている変化や、政府が注目する“特定重要技術”とは何か、米国との関係で注意すべき輸出管理の話まで、広く浅く、でも実務に活かせる視点でご紹介していきたいと思います。
ぜひ、お付き合いください。